国民的特撮ヒーロー「ウルトラマン」の原型は「ベムラー」というモンスターで…、という誕生秘話は、ファンにはよく知られたエピソードです。
ただ、その片隅に、ある女の幽霊が鎮座しているという不気味な裏話は、あまり知られていないかもしれません。
これは都市伝説の類いではありません。ウルトラマンの生みの親として知られる脚本家・金城哲夫氏がまさにウルトラマンを生み出さんとしていた場所で発生し、その場に居合わせたもう一人の脚本家本人が語った実話怪談としてこの本に残されています。
日本初の特撮シリーズ『ウルトラQ』の放送開始を半年後に控えた昭和40年・初夏。ヒット確実と見込まれていた『ウルトラQ』に続く新たな企画「ベムラー」を練り上げるため、金城哲夫と山田正弘は祖師谷の古びた旅館に籠っていました。
ある日、ふすまを隔てた隣室に青い服を着た女性客がひとりで宿泊していることに気付く二人。
「つまりね、妻子ある男とただならぬ関係になったのだが…」などと事情を探っては、むさくるしい男部屋での清涼剤のようにその存在を楽しむのですが、それも束の間、深夜に女の部屋からすすり泣く声〜恨み言が聞こえてくると、部屋の空気は一変して重苦しい不穏さを帯びてきて…。
言うまでもなく、その女はこの世の存在では無いことが分かります。
ウルトラマンのイメージカラーである赤とのコントラストをなんとなく頭の中に描くからでしょう、ふすまの隙間から見える女の青色の服が、怪異そのものよりも非常に鮮烈な印象を残す一編です。
生まれたてのウルトラマンにすうっと触れていった「青衣の女」。シリーズ45周年となった今でも、怪獣と戦うウルトラマンの背後にぴったりと寄り添い、そのコントラストを維持しているのだとしたら…。
…そんなことを想起させ、ウルトラシリーズに幽霊の姿を焼きつける、ファンにとっては非常に罪深い話なのかもしれません。
さて、この山田正弘氏、霊的にかなり「引きが強い」です。脚本を担当した吉田喜重監督『エロス+虐殺』にまつわる怪異譚や、強力な霊能力を持った「カムイ夫人」なる人物のエピソードなど、興味深い怪談話が多く詰まっており、ウルトラマン方面に力点を置かずとも楽しめます。改題された文庫版を圴一棚でよく見かけるので、そちらでどうぞ。
(京都)