2012年1月

映画
2012年1月17日

怪談昇り竜

 奇才・石井輝男の監督作『怪談 昇り竜』(1970年・日活)。
 今年の干支が天空へ昇る怪談だなんて、ちのり文庫としてはたいへん景気の良いタイトルなので、2012年最初の記事として取り上げてみます。

 やくざの女親分を筆頭に、背中に鱗模様の刺青を背負った数人の侠客がずらっと並ぶと、そこに一匹の竜が完成。これが日活「昇り竜」シリーズにおける鉄壁の昇り竜フォーメーションです。言わば「遠山の金さん」の桜吹雪のような、「よっ!」と声の上がるフィニッシュ・ホールド。
 しかし本作はその刺青がとある怨念によって剥がされ、血のしたたる生皮を黒猫がぴちゃぴちゃ舐めるという、たいへんショッキングな展開になります。
 
 もともとは前シリーズ(『昇り竜やわ肌開帳』『昇り竜鉄火肌』)を踏襲したストレートな任侠映画として撮影を進めていたところ、「怪談要素を盛りなさいよ」という製作サイドの無茶ぶりによって、このような路線変更を余儀なくされたといいます。
 「怪談にしろと言われても…」途方に暮れた石井監督は、あの男を冥土より召還します…。
 
 暗黒舞踏家・土方巽。

土方巽

 石井輝男ファンならカルト名作『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』で生涯忘れられない体験をしたことでしょう。フリークスが闊歩する無人島の主人にして異形なるせむし男を演じただけでなく、門下の怪しき舞踏家たちを率い、極彩色かつ放送禁止なリアル・パノラマ島をDIYした怪人。

 本作では、血染めの昇り竜を舐める黒猫の化身(やはりせむし!)として登場しつつ、ただでさえ放送禁止な見世物小屋という舞台を調理し、灰汁たっぷりの闇鍋に仕上げています。
 幼児を鍋で煮込んで食べるおっさん、嫌がる犬をレイプする女…、観る者の理性もとろけ出す不謹慎絵巻!『〜 恐怖奇形人間』でも味わった、脳を揉みしだかれるようなあの感覚がここにも!
 監督は土方巽のこのような所業を、『石井輝男映画魂(1992年・ワイズ出版)』の中でこう語っています。

 たしか楽屋裏が奈落の底みたいになっていて、土方一門がいろいろね、遊んじゃって。これもだから、怪談ということでメチャクチャになりましてね。やっぱり遊んじゃったシャシンだと思うんですけどね。土方さん呼んだことでもう遊んじゃってるんですね。

 やたら「遊んじゃった」と言われている土方一門ですが…、とは言え、それを尻目に、主演の梶芽衣子がクールに任侠映画としての屋台骨を支え切っているのが本作の凄いところ。
 特に、冒頭で梶芽衣子に両眼を切られ、呪いを発動させた女剣士(ホキ徳田が怪演!)との果たし合いが、闇夜に暗雲の渦巻くこの世ならざる舞台で展開されるラストシーンの素晴らしさといったら!
 そこでの落とし前のつけ方に、バックで流れる主題歌「仁義子守唄」が沁みて沁みてたまりません。
 
 むりやり「怪談」を接合された異形としての魅力も持ちながら、任侠映画として見事な仁義を切った、石井輝男ならではの離れ業が光る本作。梶芽衣子の唱う「仁義、仁義の昇り竜♩」が、より深く心に響くかもしれない辰年の今年に堪能してはいかがでしょう。
 土方「巽」=「辰巳」の存在感もより深く脳髄に刺さるかもしれませんが…。
 
 日本では未DVD化ですが、輸入DVDで観ることができます。
 ※京都在住の方、「ビデオ1 高野店」と「ふや町映画タウン」でVHSをレンタルできますよ!
 ちなみに、当然ながら日本では未ソフト化の『〜 恐怖奇形人間』も輸入DVDで入手できます。

■『怪談昇り竜』予告編

■『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』予告編

(京都)