心霊

心霊
2011年7月24日

中岡俊哉ことはじめ

 1970〜80年代は心霊、UFO、超能力、ノストラダムスの大予言など、百花繚乱のオカルト黄金期でした。ゴールデンタイムの定番ネタとしてお茶の間に支持され、ワイドショーでは心霊事件が芸能ニュースと並んで報じられました。海外のホラー映画が玉石入り乱れて上陸したのもこの頃です。

 そんなオカルト・ブームの中心的人物として活躍したのが、心霊研究家・中岡俊哉です。子供の頃、「地縛霊」「浮遊霊」といったクールな専門用語を駆使して心霊現象を語るその姿に魅了された人も少なくないでしょう。(うさん臭く思った人の方が多いかも?)

 この時代を中心に発表された氏の単著・編著は実に200冊を超え、超常現象にまつわる古本を巡ると、必ずと言っていいほど目にとまります。「心霊」だけにとどまらない、UFOや超能力、怪獣などオカルト全方位をカバーしながら、マニア垂涎の希少本〜誰も見向きもしない100円均一本の各棚にまんべんなく顔を出すという幅広い存在感で、オカルト古本の山脈において「中岡俊哉」という太い稜線を形成していると言えるでしょう。

 そんなオカルト古本における「大ネタ」または「ベタ」な中岡俊哉本の世界から、入門書として比較的手に取りやすい一冊を取り上げることで、「ちのり文庫」最初のエントリーとさせていただきます。
 “手に取りやすい” と言っても、「最大公約数的な魅力がつまった…」とか「キャリアを代表する名著で…」というわけではありません。単純にこういうことです。「装丁がなかなか良い」。
 中岡俊哉の著作に限らず、往々にして超常現象の本というのはタイトルや装丁に強いアクを持ちがちです。興味はあるけど「なんか家に置きたくない」という理由で今一歩足を踏み出せない人は多いはず。そんな人にとっての“はずみ”にして欲しいのは、こんな一冊です。

『怪奇と神秘と恐怖の世界』(芸文社・1967年)


 出版当時に世界を席巻していた「サマー・オブ・ラヴ」の影響下にありそうなサイケデリックな装丁は、挿絵画家、コラージュ作家として活躍した前田亜土の手によるもの。「ライトな宇野亜喜良」とも言えるポップな幻想性で、(例えば大陸書房のオカルト本の表紙のように)精神世界の深みにハマることを寸止めで回避し、他では見られないポップ・アート感を獲得しています。
 ビートルズ『イエロー・サブマリン』ザ・ゾンビーズ『オデッセイ&オラクル』のレコードと並べても違和感の無いオカルト本があったなんて!

 氏が世界中から集めた多様な怪異譚を淡々とまとめた内容も、現象に対する研究者目線での深い考察が入らない分、入門書向きと言えます。
 世界の秘境で起こった怪奇事件をタイトな文章で展開する章「世界の魔境」は、ツイッターのTLを追いかけるような「小気味よい・怖い」読書体験を得られるでしょう。
 一方で、ロズウェル事件やアダムスキなど、UFO事件の宝庫であるアメリカに背を向け、ソ連(当時)やルーマニアでのUFO事件をまとめた章「共産圏を襲う空飛ぶ円盤」は、よくある米UFO譚に飽食気味な読者にもおすすめなマニアックな内容です。

 さて、終盤にさしかかるタイミングで、突如氏の人格が豹変し(オネエ言葉に!)、女性の乳首が目玉になっているというフリーキーな挿絵とともに現れるのが「ピンク電波」なる章。内容はタイトルからある程度察してほしいのですが、これまでのテイストが容赦なく転換され、「ご愛嬌」を超える磁場が生み出す空間の歪みに、ただただ読み手は動揺するばかりです。
 怪奇でも神秘でも恐怖でもない本章がこの本随一のインパクトを残すとは…。
 しかし、本章が読み手に与える効果を想定した上で、確信犯的に差し挟んだのであれば、90年代に根本敬が生み出し、サブカル/オタク・カルチャーに流通した「電波系」を、60年代当時に知っていたとしか思えないそのネーミングに、なんとなく不気味な読後感が残ってしまいます…。
(京都)